「最近、兼さんが変……というか、困っているんです」■20180808
兼さんの指で、舌で、○○になってしまう国広は困って…いる?


その、ほんの少しの兆しに気がついたのだという。
情事に至るまでの戯れの中で、偶々、偶々指が掠った時の咄嗟の一声に潜んだ甘い痺れに気がついたのが転機だという。
流石に訝しむ。
だって、それじゃあ僕ははなから“そう”だったとでもいうのだろうか。
そんな事ないよ。
「兼さんのせいだよ」
熟れた果実に指を圧し当てるとぐじゅぐじゅに崩れるのと同じように、解れきった粘膜は中指の挿入を拒むことはなく。僕の恨み節なんか無視して一番快いところを容赦なく擦る。
「ああっあっああああっ……」
緩急のないつまらない嬌声。
けれど、それが良いのだという。
飾り立てないただの肉。
こういう時に兼さんが僕に望むのはそんな姿だった。
だんだん意識が遠のく。
今日もまた僕は兼さんだけの肉になる。

***

「その時に気づいたんだよ。兆しにな」
じわりと、湿りと濁りと、興奮が合わさってギラついた視線が向けられた時に浮かんだ言葉は「殺される」だった。
圧倒されて能動的な死が迫る。そんな感覚をついそう表現してはみたが、誤りかもしれない。
兼さんが僕を殺すのではなく、僕が勝手に死んでしまいそうになる。そんな視線だったのだと言いたいのだけど。
「な、に……?」
真夏の炎天下で畑作業に勤しみ、汗でびしょ濡れになったシャツを脱ごうとした瞬間、裾を捲ったままの両手首は矢場に捕まれ、僕は死すら予感する視線に射られた。
「なに?もしかして、し、したくなっちゃった……とか」
ハハと語尾を誤魔化してみる。
蝉の鳴き声を背景に茹だるような暑さの中で汗で黒髪が額に張り付いた兼さんの蒸気した肌は妖艶で、見つめていると飲み込まれてしまいそうだ。
「そうだな」
「う、うん。いいけど。汗かいたままでも気にしないなら今からでもいいけど。でも」
情事の前には必ず湯浴みをし、清潔な体で向き合うべし。などと教本に従うような仲では無いし、汗まみれの中で溺れて貪るような情事も既に幾度となく経験している。
体が汗で汚れているなんて兼さんは気にしない。僕だって気にしない。なのにこの緊張感はなんなのだろう。
「服、脱がずに……する?の?」
掴まれたままの手首を見ながら尋ねる。兼さんの意図がどうも読めない。
「お前、気づいてないのかよ」
少し、笑った。
「先に部屋に帰って来たお前が着替えてるところにオレも帰ってきた」
……そう、だけど。
「その時、お前は隠した。確かに」
掴まれた手首が心なしか痛い。混乱する。何を言っているのか分からない。
「隠す?僕が?」
本当に身に覚えがなかった。兼さんに隠し事なんかしたことがないし、何を見られても暴かれても僕は平気だ。
或いはそういう責め立てから入る新たな趣向だろうか。
興を削ぎたくないが、どう反応するのが正解か見当がつかない。
困惑する僕の瞬きが増える頃、兼さんは掴んだ手首を大きく持ち上げ万歳させて、そのまま裾を肘の位置までずり上げた。シャツが巾着袋のように僕の顔を覆って視界から殺気が消える。
何をされるのか。
無言でその場にへたり込むと胸の谷間をつつかれた。背中が直に床に着く。天井を見上げてはいるが、視界には蓋をするように自分のシャツが映る。
シャツを巾着状態に隠された顔、鎖骨から丸出しになった上半身とまだ脱いでいないズボン姿は滑稽だろう。見ていて萎えないのだろうか。
表情の見えない中で拘束して犯す、そんな趣向だろうか。乗ってはあげたいがどうにも合意の上の域を脱しはしないだろうな。などと、視界が遮られた分いやに冷静になる。
明瞭な思考と感覚を抱きつつ、汗だけが止め処なく噴き出し続けていた。
ああ、今、肋に沿って一筋流れた。
その意識と同時に思わぬぬめりに息が止まった。
「い、いやっ」
咄嗟に出た自らの言葉に唖然となる。
表情を直接伺えない兼さんが確かに笑っているのが解る。僕は色を失ったまま、また迫るぬめりに「ひっ」と慄いた。
兼さんの舌が腋を、釣り上げられた腕から胸にかけてのただの繋ぎ目を、ぬるんと舐めた。
付け根を下から上にひと舐めし、微かな盛り上がりを唇の上下で挟み吸い付きながら舌先だけチロチロ動かされると、汗と唾液が混じった水音がチュパチュパ大袈裟に響く。
快楽も不快もない。まだ意識が上手く繋がらない。
僕の体すべて兼さんにあげたって良いけれど、何故よりによってここなのか。
汗をかいたまま拭われず、蒸れて濃くなった臭いが自分でも分かる。熟した実が地に落ちて朽ちたような、嫌な甘い臭い。それを兼さんのぷっくり膨らんだ艶々の唇が吸い付いてしゃぶっている。
「いや……」
涙交じりに拒絶した。弱々しく。
勿論止んだりしない。
それでも口にした。
「やだ…」
穢れなんて概念は僕らには無くて、どこを切り取っても愛しいと知っていても、分かっていても、何故か、嫌だった。
巾着の中で虚しく抵抗を呟きながら、呼吸が段々甘く切なく変化していくのが分かる。
感じている。体が。
薄い皮膚の下の動脈が波打ち、神経が過敏になってくすぐったい。
快楽が過ぎる。行き過ぎて耐えられない。
「うわぁ」とも「ああー」とも、文字にはし難い喉の奥から這い出た音はまさに鳴き声だった。
顔を伏せられて、丸出しになった上半身の腋だけをしゃぶられながら鳴き声をあげる塊。
その塊に抱きつきながら恍惚の表情を浮かべて、熱くなった下半身を僕の尻の割れ目に沿ってズボンの上からこすりつける兼さんも何処か人間味を失ったような現実味の無さが在る。
僕でも兼さんでも無い、ナニカ同士の交わりに体を貸しているような現実味の無さ。
普段は腕と胴に折り重ねられた皮膚の皺を舌が這う。筋肉の流れに沿って、ゆっくり、ねぶるように這う。
その感触は肌の下に虫が這うような、それでいて快楽の釦の縁を撫で回され、全身の皮膚を捲られて神経を直に弄ばれているような、言いようのないくすぐったさで身がよじれる。
性感帯への執拗な愛撫が苦痛と紙一重のようなものか。
快か不快。そのどちらもが存在した。
「く、くすぐったいよ」
だから止めて欲しい、という含みは無視される。
「ああっ。あう……うううっ」
吸い付いて密着した口内で舌先によって遊ばれると声が一層切なくなってしまう。
噴き出す汗も兼さんの口の中で唾液と混ぜこぜになっているのだろうか。そうだとしたら吐き出して欲しい。兼さんの唇がそんなものを受け止めなくても構わないのだから。
「き、汚い……よ」
土に落ちた飴玉をどうにか食べられないものかと見つめる子供を諭すように静止した。
「そんなところ、だ、ダメだよ」
巾着で吊るされて上半身丸裸の滑稽な姿でそれらしく言ったからか、兼さんが吹き出す。
「余裕ねぇ癖に、余裕ある口ぶりすんなよ。笑っちまうだろ」
心底楽しそうな声色だった。
「手前はいつも嬉しげに最後の一滴まで精液啜ってるくせに」
紅潮する。揶揄いとはいえ、嬉しげだなんて言い方は酷い。それじゃあまるで、それじゃあまるで僕は淫乱だ。
「これくらい吸い付くんだったか」
ジュルルルッ。痕が残るほど強く吸われて「ひんっ」と情けない声が出た。それを聞いて兼さんはハハッと声を上げて笑っている。
虐められているのだろうか。
今日は“そういう事”なのだろうか。
「おお、いけねえ。いつもの癖が出た。違った違った。今日は違うんだった」
何に納得したのか独りごちると、兼さんは弄んだ唇を離し、万歳した肩周りから肘にかけてまとわりついたままのシャツを脱がせて横向きに抱きしめてきた。
僕の視界はもう何にも遮られてはいないけれど、両手で肘を抱えて頭上に丸を作る体勢はそのまま強いられた。勿論ねぶられた痕のついた腋も丸見せ。
腋の下からニュッと顔を出した兼さんと目が合う。
悪戯っぽい顔をして。もう。
「片方だけってのは具合が悪ぃよな」
訳の分からない理由を述べた唇がまた腋の微かな盛り上がりに触れる。予告された事、目視で確認している事から先程急に吸われた時より反応は抑えられたが「ふっ…ぅっ」と息が漏れ出た。
段々と汗は乾いて来たけれど、肌はじっとりと濡れたまま、兼さんの唾液と混じって腋だけビチャビチャで。変なの。
「ここの皺んとこがちょっとだけ窪んでてヒダみたいになってんだよなあ」
付け根を横幅になぞられる。自分では見えない。
産毛をあやすような優しい力加減で兼さんの指が往復する度に呼吸がつまって下腹部がキュッと締まる。
何故だろう。性器でもなんでも無いところをただ優しく触れられているだけなのに。
「そこに汗が溜まっちゃうんだよ」
また、止めなさいといった口調で言ってみるが、気にも留めない兼さんは親指と中指でそのヒダの部分を摘んで縮めたり伸ばしたり形を変えている。
「遊んでるの?」
「可愛がってる」
語尾がククッと笑い混じりで巫山戯てる。
「そんなところ舐めて。悪い子」
僕も少し巫山戯てみた。
「出来るんだよ」
返答は意外に真面目な調子で驚く。
迫られた時の刺すような眼差しが包み込むような暖かなものに変わったのはいつだったか。
「お前の恥ずかしいところ、オレは舐められる」
回想するより先に舌をつけてちゅうっと吸われて、腰が浮いて、キュウッと締まったところがさらに甘く甘く縮んで、ビクビク痙攣した。
「うぅうう…イくぅ……」
狭い腋の下全部頬張った口の中で舌先がチロチロ動く度に提琴の弦を弾いたように神経がピクンッピクンッと反応して、その度に「あんっ」と分かりやすい嬌声が漏れる。
痙攣する下腹部は兼さんの手の平で覆われて軽く抑えられ、我慢を強いられるのかと身構えたけれど、存外優しい力加減でよしよしされて胸の奥がじんわり滲んだ。
「可愛い、可愛い」
子どもをあやす声色、指使い、眼差し。
腋の下、猫のお母さんが赤ちゃんの首を掴むように甘噛みして、お腹をひとさすりされた瞬間。小さな小さな鳴き声で僕は達した。
脱力した体は引き寄せられて、だらんと伸びた腕の付け根に顔を埋めた兼さんはお腹が空いてお乳を吸う赤ちゃんみたいに無垢な仕草で、お尻にあたる大人を象徴している硬さと不釣り合いで不思議に映った。
その硬い膨らみをズルッと下履きから解放し、数回擦る音がした後「はぁ…」とため息を漏らして兼さんも僕の着衣越しのお尻に欲を吐き出した。
少しだけ背中にかかった白濁が腰に垂れるのを感じながら、唇で舐めとりたいとごく自然に考えていたのだから、僕も兼さんを制止する資格は無いのかもしれない。
濡れたズボンを引っ張られて腰が浮き、背中がズズと畳に擦りつく。摩擦で熱いとぼんやり眉根を寄せた時に蝉の声が耳に入り、そういえば外はもっと暑いのだと気付く。
見えていなかった。聞こえなかった。
兼さんの舌が皮膚を伝う感触だけに囚われていたひと時は、心地よかった。
汗で額に張り付いた前髪を拭いながら、兼さん曰く「兆し」について説かれる。
以前、前戯でふざけてくすぐりあった時に僕はこそばゆいと笑いながら腋を締める仕草を見せたらしい。
その時は単に反射的に身を守る動作だと思うも、どこか違和感を覚えてくすぶらせていたのだけど、今日、服を脱ぐ動作で腕をあげる際に自然と腋を隠したのを目撃して確信した。僕がそこを見られる事を恥ずかしがっている事に。
「は、恥ずかしいかな?」
指摘されても釈然としない。
だって。
「……もっと恥ずかしい事してんのにな」
手拭いで綺麗に拭き取られている股関節は大きく開かれて、襁褓を替えられる赤ん坊のような無防備な姿を晒す羽目になっている。そんな僕を眺めながら兼さんが少し呆れたような抑揚をつけるから微かな抵抗で腕を蹴飛ばした。
「お前そんな事すると縛り付けて吊るすぞ」
蚊に刺されたようなものと気にしない兼さんがいつもより余裕ありげで、なんだか、見てると胸が詰まる。
「羞恥なんつーのはよく分かんねえところがあるんだろうな」
知ったような口を利く兼さんは少し大人びて見える。
「股広げて粘膜擦り付けあうより丁寧に口づけする方が恥ずかしいとかよぉ」
ああ、兼さんはそうなんだ。
「お前の場合は……」
ん?僕の場合?
気になったけれど、誤魔化すように唇を塞がれた。
「……風呂行こうぜ」
ああ、そうなんだ。
まだ終わらないんだと理解して頷いた僕の手を引いて、兼さんは浴場に向かう。

***

期待していないと言ったら嘘になるけれど、こうなるとは思ってはいなかった。
だって、散々、散々好きにされたから、もう気が済んでいつもの情事に戻ると思ったから。
だから、先に湯からあがった兼さんが床の上で寛ぎながら麻縄片手に微笑む姿に絶句してしまう。
「へ……?え?」
半歩後退りした僕においでおいで手を寄せる兼さんの表情は莞爾としていて、甘い蜜で誘い込む花のようで、疑いつつも惹きつけられてしまうんだ。
暗示にかかったように、明らかな罠に迷い込む足取りの僕を軽妙な手つきで膝に乗せた兼さんはこめかみをスンと嗅いで「石鹸の匂いだ」と呟き頬ずりすると、唇を少しだけ窄める。
ぷっくりした重なりに少しだけ出来た隙間を見つめる僕の頭は願望で一色になる。埋めたい。この隙間を僕の唇で、舌で、埋めたい。
呼吸が微かに荒くなるのは分かる。落ち着け落ち着けと唱える。ギラギラと貪る姿なんて正気なら見られたくないのだから。
でも、兼さんの柔らかな表情が言ってる。正気なんて要らないって。だから。
「兼さんのせい…だから…」
言い訳が終わらない内に重なった唇の間で舌がぬらぬらと粘度を増して糸を引く。
兼さんの舌は僕よりぽってり厚みがあって先だけ窄まっているから、飲み込むように甘噛みしたら歯と舌先の感触がまるで違って可笑しい。
好き。兼さんのここが好き。
堰を切ったようにむしゃぶりついてしまったのは、ようは開き直りだ。
どうせこの後、僕は滅茶苦茶にされてしまう。
麻縄が視界に入った時は流石に狼狽えたけれど、昼間だって脱ぎかけのシャツで拘束されていたようなものだし、酷くされるなんて構わないんだ。
それでも、ちょっとした抵抗をしてみるのも興のうちだと僕は思う。
「それ、どうするの」
息継ぎの合間に聞いてみる。
肩で息する僕と対照に余裕ありげな兼さんが涼やかに目尻をやや下げて「快いこと」とだけ答える。尋ねたところで縄に縛る意外の用途など無いので、その返答は的確ともいえる。
「嘘……」
今から僕の自由を奪うであろうそれを見つめながら怪しむ。心中を読んだかのように兼さんが「本当」と呟くと、抵抗の時間は終わった。
裸でうつ伏せにされたものの、腕を前にした状態で手首だけを縛られたので頬杖をつく位には自由が効く。足だってばたつかせられる。「コラ」と一喝、ピシャリと手で跳ね除けられたからジッとするけれど。
ああ、足も縛られてしまうと覚悟したのに、存外兼さんは麻縄をポイとそこら辺に投げたので気抜けした。
特に考えなしに「蝋燭でも垂らされるのかと思った」と口にしたら、どうやらツボに入ったらしく「期待しすぎだ」と腹を抱えて笑われた。兼さん曰くこの縄は“僕の体裁のため”であって、肉体の拘束が目的では無いのだと。
あくまで受動的な拘束であるという言い訳を僕に与えているのだと。そう言う。
「得意の手品で抜けてもいいぜ」
本当に嫌なら拒むことが出来る。その事実は僕にとっては救いになるのだろうか。
「ずっとこのままなら寝ちゃうかも」
早くしてよ、なんて催促しちゃう。そうすると生意気とでも言わんばかりにピシャッと尻を軽くぶたれて、キュッと体が縮こまる。
「まぁ、そう焦るなよ」
二発。丸みに指の腹だけがあたる叩かれ方は勿体つけているとしか思えなくて、不満でお尻が無意識に左右に揺れる。
兼さんに痛めつけられた事は無いけれど、大袈裟に音が響くように掌の形そのまま赤く刻まれると、じんわり熱くなった体が自然と丸まり高揚する。中心からポカポカしてきて、何故かは分からないけどギュッと兼さんの事を抱きしめたくなる。
そういう快楽に急いて、揺れる。
「……ゆらゆら誘ってる」
フフと笑う兼さんの唇が太ももの付け根に触れ、そのまま尻の丸みに沿って滑る。髪の先が表面を刺激してくすぐったい。
ペチペチ。尻たぶに狙いを定める呼び水に瞼を閉じる。
ああ、くる。
弾く時の衝撃が吐息から漏れないように唇を噛む。全部、全部吸収して抱きしめたい。
「せぇの」
巫山戯た調子の掛け声に息を飲むが、バチンと音を刻まれるはずの尻は両手で肉をこじ開けられて、戸惑いに気づく間も無くにゅるりとしたぬめりに侵食された。
「ふぇっ…えっえっ?」
身構えて硬くなった肉への予想外の感触に思考が追いつかない。
叩かれるどころか愛撫されている。菊門を。
「なっなんでっあっあっあっ」
穴をつつく舌先がググっと迫り、混乱で、反射的に押し出そうと狭まる。
「おい、力抜けよ国広」
「ちょっと待って。違っこんなっ」
肘を使って這い蹲り逃げようとするも、太ももの外側をがっちり掴まれ、その場に突っ伏して鼻頭を打った。
酷くされる。
そのつもりだったのに。
様子が違うものだから狼狽える。
お尻の割れ目から丸みが終わる股の膨らみ部分まで兼さんの親指から人差し指の長さ丁度に収まり、容易に開帳されると普段は肉に埋もれて隠れている蕾が空気に晒され、左右に引っ張られた尻肉の中心に兼さんの顔が近づくのが分かる。小さく「ふぅん」と呟いた時に漏れた微かな息がかかって、キュッと窄まる。
「い、いいから。今更…そんなとこ…」
馬鹿正直に止めてと訴えたところで通用しないのは分かってはいるけれど、どう言い含めれば制止出来るか頭が回らない。
何度も兼さんを受け入れた部分だから今更羞恥も無いだろうと我ながら呆れもするが、丹念に観察され、あまつさえ口に含まれるなんて、流石に抵抗したい。
「ここも石鹸の匂いがする」
スンと鼻で嗅ぐ音に赤らむ。
「綺麗にしてきたんだろ、期待して」
聞きたくない言葉を防ぐ手はギッチリと縛られていて、無力に顔を背けるしか出来ない。
「ここの周りだけ色が濃くなってて、華が咲いてるみたいだな。へえ…」
自分で見ることは叶わない侵入に抵抗して窄まった蕾を容赦なく視線が犯す。
「み、見るだけに…して…」
せめてもの妥協案を出してみるも、兼さんは平然と「大丈夫、大丈夫」と更に尻肉を広げる。
「中まで綺麗にしてきたんだろ。穴ん中ズボズボに犯されるの好きだもんなあ、お前」
兼さんはキチンと配慮のある言動が出来る人だ。
だから、この物言いは煽っている。
そんな事、分かってるのに。分かっていても、視界がじんわりと滲んできた。
「……じゃあ、早くして」
兼さんの言う通り、期待で念入りに洗った穴に、早く。早く兼さんが欲しい。兼さんので無茶苦茶にされたい。
「早く、犯せば…いいでしょ」
愛想良く先導する余裕なんてなくて、開き直って、可愛げなく言い捨てた。
それなのに、クククッと息を殺して肩で笑ってるのが分かる。
「意地悪。余裕ぶって。……嫌い」
馬鹿みたいだ。自分で言って自分で少し傷ついてる。こんな事言わせる兼さんなんて。
兼さん、なんて。
「オレは」
粘膜で覆われた舌先が放射線状の皺を外から内になぞって。
「愛してる」
下腹部がギュウウウッと締まる。
歯を食いしばって堪えるけど、膝がガクガク震えて止まらない。
そんな言葉。
今、言っちゃうんだ。この人は。
お尻の穴なんて愛せちゃうんだ。
呆れる。どこに向かって囁いてるの。こっちが恥ずかしくなっちゃうよ。やめて。
気にも止めず、太ももに覆いかぶさってお尻に顔を埋める兼さんの舌は窪んだ皺を丁寧にひとつひとつなぞっていく。
「はっ…はひぃ……」
初めての感触はくすぐったくてゾクゾクした。蕾からお腹の方に連なっている膨らみが盛り上がってくる。
ああ、つゆが一杯…。
無意識に下腹部が濡れている。サラサラの体液が兼さんの舌に掘り起こされたみたいにビチャビチャに漏れ出てくる。
ゆっくり、ゆっくり、なぞる。
習字の手本を真似るように、ひとつひとつの仕草を丁寧に的確に、なぞる。
自分で見ることは不可能なその蕾の形を兼さんの舌の動きで知る。
ただの排泄器官が、兼さんの愛撫で蕩かされて徐々に性器に変わっていくのが分かる。兼さんの舌に従順に馴染んで素直に受け入れる為に形が、温度が、変わっていく。
「力、抜けるか」
布団に涎にまみれた顔を埋めながら頷く。
深呼吸して、肩から背中にかけて脱力する想像に没頭するけれど、ぬめりを帯びた菊門だけが自分の意思とは離れたナニカになってしまったようで上手く解けない。
「ううっ。できないぃ」
泣きべそをかくと、双丘の膨らみをたっぷりと掴んでよしよし慰められた。
咎めはしない兼さんの舌はひたすら菊門の皺をなぞるので、唾液で艶が増す。
荒い呼吸を敷布団に押し付けながらすすり泣く最中もずっと、延々と、べろべろべろべろ飽きもせずよく舐められるものだが、段々とぬめりに混じった熱い吐息に気がつく。
興奮……している?
分からない。単に不自然な体勢で同じ動作を連続するオマケなのかもしれない。けれど、鼓動が紐付けされたように僕の吐息にも単なる息苦しさとは違う、甘い艶が混じってくる。
「……はふぅ」
調子が変わったため息は見逃されず、同じ時機、同じ緩急で舌先はにゅるりと蕾の中心に滑り込んだ。
「あ、あ……」
掠れた声が反射的に出たけれど、あまり驚きはしなかった。ごく自然な流れがそこにはあった。
粘膜を解すように、舌先は穴の形に円を描く。
最初の一周目は蛞蝓が這うようなじわじわした速度で。
二周目は軽く圧を増してググッと引き摺るように。
三周目は窄んだ肉をこじ開けるようにぐりゅっと素早く。
周回するたびに従順に心を許すように穴が解れて、同時に放心する。無意識に体が脱力して重力のままに横たわり、先端から漏れる体液も腹を伝っているのだけれど、感覚は兼さんの舌先だけを追いかけて他はおざなりだ。
ぼーっと布団を見つめて無心でどこかの出来事のように、菊門をぐるぐる抉る舌が糸を引きながら離れるのを感じていた。穴の縁に指が引っかかり、覗き込むようにグイッと両端に引っ張られて内側の粘膜にも空気が触れる。
「や…ん……」
直腸に続く排泄物が通る道がぱっくり開かれる。
「綺麗にしてんだろ」
躊躇なく再び顔をつけた兼さんの舌と唇がその穴をじゅるじゅるっと大仰な音を立ててすするから「やだっ」と膝でずって逃げようとしたら、尻と太ももを掴まれて失敗したので尻を突き出す蟹股の状態で余計に深い挿入を許してしまった。
鼻梁を尻の割れ目につけた兼さんの厚めの舌が穴に抜き差しされて、耐えきれずに嬌声が漏れる。
「あっあああっあっあっ」
耐えた分余計に声が大きくなってしまったかもしれないが、声も肉柱から溢れる体液も、もう止め処なく垂れ流すよりなかった。身体中が神経むき出し状態に敏感になり、固定されて掴まれた尻と太ももは甘く痺れて痛いほどだった。肉柱も乳首も勃ちきって、膨張しすぎて痛い。無茶苦茶にしごいて解放したいほど痛い。痙攣し体が跳ね乳首が布団をかすると、新雪に火の粉を落としたようにジュッと燃え尽きた痛みが走った。
兼さんから見て上部の粘膜の壁を、一箇所に定めて集中的にゴリゴリ舌で抉られだしてからは嬌声は悲鳴に近づいていた。
「いやっいやっイクイクイクぅああっあっ」
だらしなく大股を広げて腰を上下にビクンビクンと痙攣させて太ももを震わせている僕はさながら解剖されて嬲られる蛙のようだろう。
パンパンに膨らんだ肉柱の先端から勢いよく透明の飛沫が吹き出す。何これ。
頭が混乱する。未知の快楽が日が落ちた後の暗闇のように迫ってくる。
「ううっ兼さん怖いよぅ」
縛られているのは所詮手首のみにも関わらず、全身を苛まれたかのように泣き、次第にしゃくりあげた。
脇目も振らず子供のように泣きじゃくったからか、流石の兼さんも「おお…」と気が引いた声と共に顔をあげた。
「刺激が強すぎたか」
あまり反省しているとも思えない調子だ。無論涙と涎と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で呼吸を整える僕はそれを咎める余裕などない。
紙一重の苦しみとなった快楽が一時中断されて幸い、ただそれだけだ。
「お前の穴ん中、肉がぷりぷりで舌が追い出されそうだったぜ」
どこか得意げな口調は空っぽの頭にやけに響くも、思考が回らず咀嚼は出来ない。
「ふーっふーっ」
出産中の獣のような息遣いで荒ぶった神経を落ち着かせていく。兼さんの唾液で濡れそぼつ粘膜がパクパク口を広げたまま、未だ興奮している。硬くなった乳首も肉柱もパンパンなまま、痛い。
うつ伏せに布団に体液を染み込ませながら、おぼろげに「痛い」と呟く。戦闘で斬られた時の鋭利な痛みではない、じわじわと内側から蝕む毒のような、それでいて甘美な痛み。それは抗いようがない快楽で、怖くて、惹かれる。
お尻に柔らかな感触があたる。
あ、兼さんが口付けた。
認識が一拍遅れたのは、それが雨露が花びらを伝う時のような、自然で、慈しみに溢れたものだったから。僕を苛む快楽を与えた人が、まさかって。
「くすぐったいよ、もう」
今更柔らかく扱われて気恥ずかしくて足をジタバタして誤魔化すけれど、また、ムニッと唇が触れた。
「柔らけぇ尻、つき立ての餅みてえ」
全く色気のない例えをしながら、唇でついばむように何箇所も口付ける。
当人の言う通りつき立ての餅を成型するようにむにゅっと指で丸く摘んで頬擦りして、また遊んで(曰く可愛がって)いるのだろうか。
深呼吸が出来るまでに落ち着いた呼吸で酸素を頭に運ぶ。
覚悟していたけど、お尻の粘膜を執拗にねぶられるとは予想外だった。
兼さんは情交の最中にだけ加虐心が混じった目を向けることがある。今までは体の自由を奪われたり、軽く歯型をつけられたりでガス抜きしていたそれを今日はとうとう突きつけられると思っていたのだけど。
兼さんの舌が出入りした部分。
不浄なんて言われる器官。
そんなところに躊躇なく口付けて、兼さんやっぱり悪い子だ。
「だめって言ってるのにやめないんだから…」
呆れてるって分かりやすくため息をついてみた。こんな事したらまた吊るし上げられちゃうかもしれないけど。なんて。
「……お前さあ」
居直るかと思いきや存外柔らかな調子で口が開いたので拍子抜けした瞬間、ガバッとうつ伏せの僕に兼さんが覆いかぶさってきた。背中からぐっとお腹を押されて、ぐはっと息が漏れる。今更殺す気だろうか。
「うえっ、重いよ!」
「お前さあ」
体勢的に首が回らないので床に敷布団に額を押しつけたまま抗議するも横に流される。多少は気遣われたのか体重はかかっていないものの、衝撃でえずきそうだ。
兼さんは悠長に続ける。
「気持ち良かったんだろ」
ここ、と菊門の皺をぐるっと指でなぞる。
ヒュッと背筋が伸びた。
「すげぇよがってたし。なあ」
ハラハラする。
まだ、終わってないんだ。
「国広ぉ。なんか言えよ」
指が。容易に、にゅるりと挿しこまれる。一本。
「あっ、やぁん…」
挿入の瞬間は流石に体が跳ねたが、覆いかぶさっている兼さんに衝撃は吸収された。
密着した上半身と少し浮かせた下半身の下でまた粘膜の肉壁をいじられている。
「だめ。弱ってるの、そこ」
「ここ?」
ずぶっと指が押し進む。
声を押し殺して、耐えるために顔を布団に擦りよせた。
指がずぶずぶ前後に抜き挿しされて、その度に体が一緒に揺れる。
「ああんっ」
「普段排泄するようなとこをよ、こうやっていじって気持ちよくなるなんてな。なあ」
兼さんが「国広」って名前を呼びながら愛撫するから、もう、名前を呼ばれるだけで、反応しちゃうようになっちゃった。
兼さんのせいだからね。
こんな、いやらしい。
「ううー、ジンジンしてきたぁ。だめぇ」
観念して涙交じりの声をあげた。
止まない。止むわけがない。
「風呂場で洗ってたんだろ。ここ、こうやって、念入りに。オレに可愛がって貰えるように」
裏返っちゃうんじゃないかってくらいに指が内から外に、外から内にずぼずぼ抜き挿しされて、腰が砕けてまた太腿が微かに開く。
「は、はひぃ。息っ無理っ…できな…」
息が詰まって顔が真っ赤に茹で上がり、口の中に鉄の味が広がる。潮を吹いて開き癖がついた先端からだらしなく体液がぼとぼと零れる。
「よ、汚れちゃ……」
今更にも今更な事が口から漏れた。
また。優しく兼さんが口付ける。背中に。
「汚くねえよ」
挿さったままの指が焦らすように中で円を描く。
「オレが欲しくて、形変えて吸い付いてきて。可愛いやつ」
ずぶーと指の第三関節まで押し込まれて、うつ伏せで抱き寄せられながら耳元で。
「こういうとこに惚れてんだぜ、オレも」
囁かれて、うなじに柔らかな感触が落ちた瞬間。イった。訳がわからない。放心するくらい、イった。我慢の限界を超えてお漏らしする時のように勢いよく、とめどなく、イった。言葉なんて、出ない。
「あああ…」
出るものなんてもうないってなって、ようやく声が絞り出てきた。白濁の源の膨らみが急に空になったみたいな、すっきりしつつも余韻でジワジワ伸縮している。
「全部…でちゃ……た」
涎と鼻水と涙で濡れた顔が、熱い。頭もぼうっとする。
「こっちはまだ」
「兼さん…」
お尻の割れ目に擦り寄せられた肉棒も、熱い。
「か、カチカチだぁ。へへ…」
ぐしゃぐしゃな顔のまま、可笑しくて口元が緩む。
ずっぽり指を咥え込んでいた穴の縁に、今度は指二本ずつを添えて内側に食い込ませながら中を暴かれていく。紅玉色の肉壁がぬらぬら揺れているのを兼さんが見つめている。
イキ疲れて力が出ないからか、麻酔で脱力したみたいに菊門が抵抗なくすんなり自分から口を開いたようだった。
内臓の生々しい色やうねりは醜悪で興醒めしないだろうか。わざわざ垣間見なくても、と、そう思う。
けれど、兼さんの声色は柔らかい。
「どこまで綺麗にした?」
「……奥まで」
「さっき入ったとこくらいか?」
「ううん。もっと、もっと奥まで」
「随分念入りだなぁ。ああ、奥の方も艶々光ってるぞ」
よく見えるように照明が当たる真下に腰ごとお尻を持ち上げられて穴の中を覗かれる。
自分じゃ決して見えない部分、それもお尻の穴なんて晒しながら顔と下腹部をぐちゃぐちゃに濡らしているなんて。すきものみたいだけど、それでも、兼さんにちゃんと見て欲しい気持ちもある。
「いつも、ちゃんとしてる、んだから」
途切れ途切れに主張する。
「兼さんの大事なところ、挿入るかも、だから……あっ」
開いた穴に兼さんの唾液がつうっと注がれる。
「偉いなぁ、国広は」
ああ、胸が、迫る。
心臓が早鐘を打って、血液がぎゅるぎゅる体内を駆け巡る。指先が痺れて、痛い。甘くなる。体が、切なく甘く色づいていく。
拡げていた指の代わりにぷりっと艶々に光る丸みが充てられ、「あっ」と声がでたと同時にずるんっと肉壁に沿って肉棒が嵌った。
膨張して、釘でも打てるんじゃないかって位硬くなった兼さんの一物が根元までずっぽり挿し込まれたのに意外に声は出なかった。
「はふ……」
吐息ひとつだけ。 兼さんも想定外なのか、僕の反応を慎重に探るように挿し込んだまま動かない。
二人ともうつ伏せに重なったまま時が止まっている。内側で兼さんの肉棒に血が集まっているのが解る。凄い。兼さんの皮膚の下に潜り込んだみたいな一体感だ。
いつもならたちまち嬌声をあげる場面だろうが、今は少し様子が違う。
刀が鞘に収まるように、兼さんが僕に、あるべき形として収まったような安心感がある。
「ぴったりしてるね」
「ああ。でも、熱い」
血が滾ると熱くなる。
僕も兼さんも熱い体が溶け合って、どちらがどちらか境目がない。
ゆっくりと、ずるんと引き抜かれた穴がこっぽり口を開いたまま空気に晒されている。心細い冷たさに眉根がよる。
開いていた太股をぴったり閉じさせられると、兼さんが馬乗りになってきて、尻たぶの真ん中に合わせてまたぬらぬらに濡れた先端が擦り付けられてそのまま挿入ってきた。
「あぐぅ…」
体勢的に狭まった肉壁をこじ開けられて今度は声がでた。
「待たせた分、可愛がってやるよ」
その声だけで蕩ける。
「兼さん…あっ、ああっ、嬉し……好きっ気持ちいぃ…あうう」
根元まで挿入した肉棒をゆっくり焦らすように抜くと、鈴口から漏れた透明のねとねとが肉壁に通った証のように奥から糸を引いてついてくる。いっぱい擦り付けて欲しいから無意識にお尻が揺れていたようで、兼さんが「尻が生きてる」と笑いながら柔らかく撫でた。
「快くする、たくさん」
或いは恐怖すら覚える言葉が今の僕には優しく響いて、胸がいっぱいになって、ただ頷いた。
「おつゆ、欲しい。兼さんの。ややが出来るくらい。いっぱい」
「好きなのか」
「好き」
「好きかあ」
引き抜く途中の肉棒が再び勢いよくぶちゅんっと奥にぶつかって歯をくいしばる。
甘美に震える腰を兼さんの両手が包む。
待ち侘びて切なくまとわりつく肉壁を振り切って、怒張した肉棒が突き進むのと引きずり出すのを何度も何度も繰り返すと、肉と肉がぶつかる音と甚だ嬌声とは思えない僕の濁った鳴き声が混ざり合って、愛の営みなんて光景にはとても見えない。手首を縛られた上、馬乗りで乱暴されているようだろう。
けれど、解る。解る事が出来る。良かった。本当に良かった。嬉しい。
求められるか定かではない、奥底まで期待で念入りに清める行為は白紙となると途端に虚しく心の中で沈むのだ。
それが報われた上に、そんな下心を優しく愛撫されて、何度も何度もイかされて。
「兼さんすきっ…好きぃ!」
必死に助けを求めるかのようになんの装飾もない、言葉通りの感情が爆発した。
何故だろう。胸が熱くなって、?が隠れる位に涙が溢れてくる。
じゅぽじゅぽ容赦なく抽送を繰り返していた肉棒が体内でピタリと静止すると、兼さんが僕の肩を抱えるように体勢をずらした。合わせて肉棒がずるんと肉壁をこすって、思わず鈍い声が出た。
厚い胸板から背中越しに伝わる鼓動が僕に何よりの安堵を与える。顔が見えなくたって、声が聞こえなくたって、繋がっている部分の熱に寄り添えば安心出来る。
鈍感な肉壁に染みる兼さんの鈴口から漏れた体液すら今なら解る。兼さんのだ…。ほんの一雫でも逃したくない。兼さんが出すもの全部が欲しくて体がよじれる。
「また尻が揺れてる」
声が、近い。
「お前ん中あっつくて…溶けてへばりつきそうだ」
張り詰めた肉棒の血の巡りも、解る。
「ちゃんと種付けしてやるからな、国広」
そう言って、うなじに落ちる口付けと同時に、少し、鼓動が早まった事に胸が締め付けられる。
ここに、有る。
今感じたこの僅かな鼓動の早まりに、兼さんの勇気が、有る。
「全部出して……」
「全部、なぁ……」
安堵から弛緩した体が、少し困ったような声色を出した兼さんに包まれる。衝撃によってはバタついた膝下はだらんと伸びて兼さんの太股の合間で大人しくなった。
ゆっくり、ゆっくり、絨毛ひとつひとつに粘液を絡ませるようなじわじわとした抽送は僕を落ち着かせた。
「はぁ」
深いため息は安心の表れだった。
穏やかに染み渡る快楽は、緩急はないが適温の湯に浸かり続けているような心地良さがあり、このまま意識を手放してしまいそうだ。
かろうじて「国広」と呼ぶ声で引き戻される。
「すげぇ、快い。気持ちいい」
呼吸が、心なしか荒い。
「僕も。快いの」
「キスしたい」
「……して」
「顔、こっち」
姿勢としては苦しかったが、後ろを覗くように首を伸ばすと、顎を支える兼さんの手にそのまま引き寄せられて薄く開いた唇から覗いた舌が絡まった。
沢山、沢山愛撫してくれた舌が、大好きな兼さんの一部が、丁寧に丁寧に、唾液一滴落とさず小さな隙間で僕の舌を味わっている。
唇が完全に密着して、二人の口内で舌を転がしあってから数回目の抽送で顔を切なくしかめた兼さんが一言呟いてぶるっと体を震わせると、勢いは抑えめの精液が肉壁の中でビュルビュルとめどなく溢れた。
呆気ない気もするが、爪先を伸ばしたまま受け入れる兼さんの射精は嬉しかった。ずっと、これを待ち侘びていたのだ。
「止まんないよ」
「抜くか?」
「やだ。全部、飲むの」
根元からポンプを押し上げるように収縮する肉棒をわざと締め付けて留まらせる。
射精。してる。
精液を放出する際の律動が肉壁からお尻に体に響く。感じる。腸内にじわじわと染み込むのは願望混じりの感覚だけど、うつ伏せの背後にぴったりくっついてる兼さんと僕の体液が混ぜあって布団に染み込んでるのは現実で、ぐっしょり濡れてしっとりぺたんこになっている。
「はぁ…溶ける…気持ちい……」
肉壁の中でなんの隔たりもない粘膜を擦りあいながら、兼さんが何度目かの口づけをうなじに落とした。
なんの緊張感もない体をだらしなく投げ出したまま射精されてる悦びだけに浸っている体は、繋がったままぐるっと横向きに直されて、手首の縄もほどかれたれど、癖がついた手首は抵抗なく重なったままだ。
「快いか…?」
また顎を引き寄せられて、うなじから首筋、首筋から顎を伝う兼さんの唇に塞がれる。
立体感が分かる丁寧な口づけは唇の柔らかさを強調していて、背中が跳ねるくらい気持ち良い。
「だめぇ…また…イく……」
言葉と裏腹に拒絶出来ない。なすがまま受け入れてしまう。あまりにも、気持ちが良い。
舌を唇で挟むみたいに甘噛みされながら、微かに痙攣する丹田を手のひらでぎゅーと圧されて、イッた。白濁はもう出なかった。腰だけが何度も痙攣した。
「あんっ…う……ふぅ」
落ち着き、瞼を開けると久々に兼さんと目があった気がする。
「顔、トロトロになってる」
「兼さ…いいよぅ…」
「ああ、いいな」
これは会話だろうか。
兼さんの愛撫で熟した体をぎゅっと抱きしめられて、再び丁寧に皺と皺が合わさる口づけをされて「おやすみ」と言われた途端、僕は催眠術にかかったように意識を手放した。

***

気がついたら、行燈の光にほんのり照らされ頬杖をついてる兼さんと目が合った。
清められたであろう体はかっちりと寝間着に包まれて、胸まで布団がかけられている。下半身がすっきりしているから、おそらく肉壁に吐き出された精液も全て掻き出されて綺麗にされたのだろう。
「綺麗になったからまた出来るね」
回らない頭で何故か冗談が口をついた。
「淫乱」
「嫌いじゃないくせに」
「それはまぁ」
歯切れが悪い様が可笑しくて口元だけ笑みを浮かべてしまった。
今日は二人ともたっぷりと射精して、ドッと疲れた。
疲れたせいで取り繕う思考が無くなった。布団に並んで手を繋ぐ仕草があまりにも自然なことにも触れないほどに。
「どうだ。腋も尻の穴もたっぷり舐めてやったぞ」
「ご苦労様です」
「感動が見受けられねぇな。あれだけよがっておいてよ」
「嫌々やってる様子は無かったから、いいかなって思うことにしたよ」
「嫌々やるかよあんなこと」
兼さんにされた“あんなこと”を思い返すと我に帰るだろうから、ふんわりと俯瞰で見た風にだけ想像する。
「なかなか趣向を凝らして来るね」
「そりゃあな」
天井を見上げながら、抑揚なく呟く。
「好きだからな、お前のこと」
うっかりにも。
うっかりにも程がないだろうか。
ちょっと冷や汗が出た。
「あの…さ、兼さん」
返答はない。
「手の脈、凄いことになってるんだけど。死なないでね」
ね、と軽く握り返した手の動脈がバクンバクン波打ってるので真剣な願いだ。

そうそう。
兼さんが言いかけていた事なのだけど。
僕は被虐には耐性があるけど、優しく丁寧に扱われると途端に照れが生じるから、恥ずかしいところを丹念に愛撫すると頭と体がチグハグに反応して、最後は相反した分だけ素直になった体が快楽にトロトロに溶けて馴染むんだって。
恥ずかしい事は気持ちが良い。
全くもってその通りだと思う。兼さんは賢い。
だから最中に僕に丁寧に口付ける時の怒張の具合は凄かったのだろう。

ところで。

頭が回ってないからとはいえ、うっかりなんの策もなく好きだなんて言ってしまったこの人はきっと、裸を見せ合う事なんて話にならないほどの羞恥で思考が停止しているわけだけど。
どうしたものか。
僕も今夜ばかりは疲れていて、今だって二人して無表情だ。
無かったことにしてやり過ごそうか。
そう思って、行燈の光に目を細めた時に、たまたま、たまたま横顔が映った。
流行性耳下腺炎(おたふく風邪)にでもかかったのかと疑いたくなる真っ赤な顔が。
初めて。おそらく初めて見た。
ここまで照れて無表情なんて、どれだけ疲れているのだろう。
「今日は、疲れちゃったね」
淡々と話す最中も手の脈が凄い。
「好きな子のお尻舐めて興奮しちゃう悪い子のおちんちん虐めるのは明日にしてあげるね」
このまま手から血飛沫が飛びやしないだろうかと若干心配しつつ、しっかりと、ぎゅっと握り返して眠りについた。
翌朝兼さんが生きていますように。
恥ずかしい事は気持ちいい。

明日もいっぱい恥ずかしいことしようね、兼さん。

【了】


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