R-18「お前の口、柔らかくて小さくて、可愛い」20180520
目合いなんてとんでもない。
兼さんは床の上で僕の裸すら見たことありません。
清純な関係です。ええ。きっと。
と、主張する堀川くんの夜を覗く。
鬱積の根源が和泉守というわけではなかったのだけど、それでもぶつける相手が居るとしたら和泉守だった。 その晩も同室の相棒は「じゃあ、おやすみ」と手の一つも握る事なく布団に潜りこみ、その姿に大袈裟にも絶望すら感じた堀川はついに言ってしまった。 「兼さんの意気地なし」 震えていた。 とうとう、とうとう言ってしまったのだから。 互いに好いているはずの二人が誰にも邪魔をされない密室で寝食を共にして数ヶ月、目合うどころか口付け一つ交わした事が無いとは誰も信用しないだろう。しかしそれが事実だった。 何故和泉守は何もしてこないのか。そんなに自分に魅力が無いのだろうか。それとも。 窮した堀川がとった挑発という選択は果たして正しかったのだろうか。 「よく言う。夜這い一つかける度胸すらねえ癖に」 首だけで軽く振り返った和泉守は無傷を誇示すると泰然とした口調のまま、また布団に潜り込んでしまった。 堀川は慚愧に絶句した。 自分は和泉守の言うことならば何でも聞くし何でも受け入れるのだから、こと情交においても当然和泉守に主導権があり、引き金を引くなら然もありなんと疑う余地がなかった。 しかし、和泉守にさらりと責任転嫁だと指摘されて赤面で顔が上がらない。悶々としながら結局寝転んでいただけなのだ。 ――夜這い 出来るだろうか。いや、やるしかない。 口付けの一つも上手く甘えてせがめやしない要領の悪さだが、今更そんなものは求められてはいない。和泉守が言った度胸とやらを試されているのだ。 「か、兼さん」 取り繕う余裕はないけれど、なるだけ愛らしく振る舞いたかった。堀川は両手を拝むように口元で擦り合わせて、一息つくと意を決した。 「僕のことを……犯して」 下さいと続いた語尾はほぼ消えかかっていたので和泉守の耳には入っていないだろう。 いたたまれなさに涙目を両手で覆った堀川の視界から消えた長く黒い艶髪の後頭部は数秒の沈黙の後、くくくと震えだした。 手招きされて入った布団の中で向き合う和泉守の莞爾とした笑みに魅入られたせいか丁寧に発音された「愛してる」はうわ言のようで現実味が無かったが、直後に重ねられた唇から伝わる慈しみに堀川は胸が張り裂けそうになった。 愛されている。余りにも確かな証に返す言葉が見つからず、ただ頷いた。 啄ばむように触れた先端が互いの熱で溶け合うようにゆっくりゆっくり重なりを深めていく。 嘘みたいだと思った。普段自分を揶揄って軽口を叩く和泉守が甘く囁きかけてくる。 こんなに繊細で柔らかな唇をしていただなんて、ぷっくりした厚みと瑞々しい艶色をただ凝視するだけでは気づけなかった。 「オレから触れると、お前を壊しちまいそうで……」 その柔らかさが懸命な努力による配慮なのだとこそばゆそうに濁した語尾が物語る。堀川は感激でより一層胸を熱くし、挑発だったとはいえそのいじらしさを意気地が無いと煽った事を後悔した。 「全然。大丈夫。僕、頑丈だから」 ほら!と片腕にこぶを作り掲げてみたら、先程は後頭部で体現した愛おしさに和泉守は苦笑した。 次第に濃くなる夜闇の中で枕元の有明行灯を模した電気照明の仄かな光だけが二人を照らしている。流石に昼間のようにはいかないが、それでも和泉守の血色の良い唇や髪の艶、碧色?へきしょく?の瞳の鮮やかさが堀川を釘付けにしていた。夜目が利く脇差だからか、頭の中で普段の色を重ねて補完しているだけなのかもしれないが。 「兼さん、綺麗」 無為に触れた黒髪が指をすり抜けて行く。 「お前も同じ色してる」 瞬きしない和泉守の碧色の一番深い部分に自分が居ると気づいた堀川は気恥ずかしくなり「嘘」と視線をはぐらかした。返答や異論の代わりにすぼめた口にやはり柔らかい唇が重ねられた。 「服、脱がなくていいの」 この先を具体的に想像し鼓動が早鐘を打ったが、意外にも和泉守は「いい」と言ってまた口付けをひとつ落とす。角度だけ変えて丹念に愛おしさを形にしたそれは何度目であっても心地よかった。 「今から犯されるんだぜ、お前。望み通りに」 横たわりながら優しく抱き寄せて、額に瞼に?に唇にと口付けを落とす動作とチグハグな毅然たる宣言に思わず肩が震えた。不安より期待と好奇心で息が荒くなる。 力づくで拘束されているわけではない。拒絶の意思を少しでも見せた瞬間、和泉守は手を止め布団を整え背中を向け、何事も無かったようにおやすみと眠ってしま うだろう。 和泉守が堀川を犯したいわけではなく、堀川が和泉守に犯されたいのだ。 それは単なる被虐嗜好ではなく、和泉守自身が自分を選んで貪る姿に夢見る堀川の少々変わったいじらしさといえよう。 されるがままを受け入れたい。そんな我儘が今から叶うのだ。 「国広、あーん」 幼児にするような誇大な仕草につられて口をあんぐり拡げるも不足しているらしく「もっと」と顎を掴まれ、親指と人差し指で挟んだ?を中心に押しこみ強制的に喉奥が見える程大きく口を開かされた。 「ひゃねひゃん?」 顎を掴まれたままおそらく「兼さん?」と発したのだろうが、上手く舌が回っていない。横から?肉に押されて突き出された蛸のような唇に和泉守は歯を見せて笑い、満足げに一度チュッと音が鳴る口付けをした。 遊んでいるのだろうか。不思議そうに目を丸くした堀川に、やはり幼児にするようにべっと舌を出して真似するように促す。 堀川が素直に舌先を突き出すも、やはり不足しているらしく「もっと」と煽りながら自身の舌先をチョンとくっつけるとそのまま唇で挟まれたので、驚いて舌を引っ込めてしまった。 「あー」 「お、おえんなはい」 わざと大仰に落胆したように見せると慌てて謝り、一生懸命舌の根から突き出してきた堀川はいたいけで、つい抱きしめてしまいそうになるがグッと堪えた。 「ちょっとだけ上向け」 和泉守が顎を持ち上げるままに従う。内科で喉が腫れていないか検診されているようだ。 今日けしかけるにあたり念のため湯浴みで体の隅々を綺麗にはしたつもりだが、口内をまじまじと観察されるのは想定外で堀川は不快を与えていないか心配する。そんな一瞬の揺らぎを視線から察した和泉守が「大丈夫」と囁くと、下唇の縁を盛り付けの仕上げのように指でなぞった。 「お前の口、柔らかくて小さくて、可愛い」 可愛い。口を広げた間抜けな顔のまま和泉守を見入る。 和泉守が自分を可愛いと言った。 嘘かと思った。また揶揄っているだけなのかと。よりによって大口開けたこんな時を狙い澄まして「可愛い」だなんて意地悪だ。やっぱり兼さんは意地悪で狡い。 堀川の縁がハッキリした黒目が滲む。 「国広、可愛い」 思わぬことを口走りながら近づく端正な顔立ちに心の中で反駁しながら瞳を閉じると、塞がれた唇の間でねっとりと舌が絡み合った。立体を確かめるように先端でなぞられていく堀川の舌は緊張で硬くなり、一方和泉守の舌は同じ器官と思えない程繊細に動き刺激を的確に与えてくる。舌も筋肉なのだから当然自在に鍛え、動かせるものではあるのだろうけどこんなに細やかな愛撫が可能な部位だと認識していなかった。 堀川の舌の縁を一巡した時期でぷはっと音をあげて二人の唇が離れた。肩で息する堀川の反面、和泉守は呼吸ひとつ乱さず、じっと手で固定した堀川の顎と唇を見つめていた。 上体を起こされ、背中をさすりながら抱きしめられた。 「もう自分で出来るだろ?」 後頭部をよしよしされながら聞かれ、鎖骨に押し付けた額でうんうん頷いて顔を上げ「出来る」と言い切り、初めて自分から歯がぶつかるような不細工な口付けを仕掛けて口を目一杯開ける。 可愛いと言われたから。もっと、言われたいから。 これから何が起こるかまだ想像がついていないが、和泉守のなすままにされたくて無防備に口の中を晒した。 「舌も突き出して」 言われるがままに従う。 凝り固まった舌の根をほぐすように喉奥から意識して精一杯突き出してみせた。 無意識に目は半開きになっていて、覗き込む和泉守が薄っすらぼやけていて頼りなかった。 ただ、はっきりと解放された?肉を包み込むように撫でながら注がれる和泉守の視線だけが熱く、堀川を確かに犯して行く。 「ははっ。穴の前に小さいのがついてる」 口蓋垂を眺めて意地悪に笑っている。普段は存在することすら意識していない部位だから小さいだとか気にした事もないから恥ずかしい。 少しだけ顎を持ち上げて角度をつけられ、また、観察される。 「舌の裏側。つるつるして、ぬるぬる光ってる」 僕が見たことがない僕の部位を兼さんがじっくりと眺めて状況を口にする。 恥ずかしい。変だったらどうしよう。でも、見て。 一生懸命伸ばした舌先に和泉守の舌が触れた。 裏側をジグザグになぞってからジュルッと音を立てて舌そのものを吸われた。少し驚いたけど、口を閉じないように頑張って踏ん張る。 肩に入った力をほぐすように和泉守の腕が堀川の体を引き寄せ、頭を仰け反らせて気道を確保する楽な体勢を取らせるとさらに口に含んだ堀川の舌を蜜を絞りしゃぶるように愛撫した。 粘膜が混ざり合いぬるぬると溶け、摩擦すら感じない。舌が和泉守の口の中に吸収されて、砂糖菓子のように唾液の中に溶けてなくなってしまうのではないか。自分の体の一部を奪われて失うような感覚と共に、手に負えない程の深い快楽が襲ってきて堀川は混乱した。 怖い。怖くて、気持ちいい。 相容れない感覚が頭の中でぶつかりあって現状を把握出来ない。強く弱く緩急をつけながら舌を吸って舐めてしゃぶられて、気づいたら体の力はすっかり抜けていて、和泉守に支えられてやっと存在していた。 立ち上がらなければ。腹に力を入れようとした時、舌の中央付近を甘噛みしてジュルーッッと音がなる程強く吸引された。 鳥肌が立ち、乳嘴が硬く尖り、背中からガクガク震えた。耐えられない。瞠目したまま意識がどこかに行きそうだ。水音だけが響いている。こんなに顔が近いのに焦点がぼやけてちっとも見えやしない。舌で繋がっているこの相手は本当に和泉守なのだろうか。 不安になり背中に回した手で和泉守を引き寄せると、後頭部に添えられた手が大丈夫とでも言うように二度ポンポンと撫でさすった。舌を吸い込む力だけはまだ、強い。 溶けて食べられて、兼さんと一つになる。 優しく扱われながら個が和泉守の中に消えて行く想見が心地良くなってきて、抗うことをやめて瞳を閉じ、漏れ出た唾液が顎を伝った時、味わい尽くした果実の皮を吐き出すように和泉守が堀川の舌を解放した。 少しだけジンジンしているような。でもぬるぬるして柔らかかったのが殆どで。奪われていた舌の感覚がゆっくり堀川自身に戻ってくる。 「痛く……なかっただろ?」 様子を伺う和泉守も初めての交わりに若干の不安があるのだろうか。気にしないで欲しい、頑丈なのだから大丈夫だ。 「うん。すごく、気持ちよかった。今もドキドキしてる。口吸い、初めてしたから。また……してね」 快楽に麻痺した感覚に乗じて勇気を出してねだってみた。嫌だなんて今は意地悪でも言わないで欲しい。 「……そういう事言うなよ」 「え?」 身構える。辛く、身を裂く本音が降ってきそうな気がして。 けれど、眉を寄せる和泉守は酷い言葉をぶつける気など垣間見れない悩ましげな表情をしていた。 「こうやって顔を見合わせながらだと加減出来ると思ったのに。くそっ」 苛立ちは堀川にではなく自身に向けられている。何がこの人を苦しめているのだろうと堀川もかける言葉に躊躇う。 「意気地が無いとか煽りやがって。人の気も知らないで。こんな……」 手を引いて導かれ、触れる。和泉守の一番熱を持った部分だった。 「こんなもんでお前が傷つくのが怖かったんだよ。悪かったな」 寝間着に隠れた下履き越しの熱は触れた指先を跳ね返すかのように硬く張り詰めて輪郭を強くしている。 兼さんがこんなに辛く切なくしているなんて。 堀川の無垢な心は自然と下履きから勃ち上がった肉柱を解放すべく、先端を優しく抑えて引っかかった布を上手にずらしていた。勢いよく表れた全貌に驚きはしたが、屹立した男根に畏れや好奇より遥かに大きな愛しさが浮かんだ。 細かな色や造形は認識出来ないが、仄かな明かりの中で輪郭は影が付く事でよりはっきり強調されている。 こんなにして。 根元に指を当てて掌で掬うように触れると、肉がより一層硬くなった気がした。 「来て。兼さん」 平たく座った重心を後ろに仰け反り、水中から酸素を乞うようにぱっくりと口を開けて路を示す。 「兼さんが思ってるより多分、僕は平気」 安心させたくてちょっとだけ強がりを言ったけれど、すぐに「嘘つけ」と笑われてしまった。 「お前こそ自分で思ってるより小さくて柔らかいんだぞ」 膝立ちで唇の先に突き出された反り返る肉柱は大きくて硬くて、対照的な肌目は僕らそのもののようだ。だからこそ目と鼻の先のそれが兼さん自身に思えて、躊躇なく?から唇に擦り寄せた。 何度も名前を呼ぶ掠れた声の切なさにつられて潤んだ目顔でもう一度「来て」と唱えたら、唇の上下にぷっくり収まるように先端が添えられた。 鈴口から漏れる透明の体液を受け止めようと伸ばした舌の上に滑らせて硬い肉が侵ってくる。 傷つけないようになるべく歯を引っ込めたけれど、顎はこれ以上上手く開かない。ごめんねと視線を上げたら兼さんは上気した顔で唇を噛みながら言葉なく、ただ慈しむように汗で張り付いた僕の前髪をかきあげて額から?を何度も何度も撫でた。 何度もよしよしされて胸が迫る。もっとしてほしい。下腹部がくすぐったくソワソワしてきた。 「舌だけもう少し突き出せるか」 頷いて、言う通りにしてみたら喉の奥から空間が開くように余裕が出来た。 「上手だ」 嬉しい。もっと褒めて。 「入った。ほら、ほら」 唾液と先走りを混ぜながら口内にゆっくりと侵入する肉柱への息苦しさの中で、先端のくびれが上顎を引っ掛けた時に神経をそのまま摘まれたような電流が走った。 背中が大きく跳ねて、嘔吐反射をおこし逆流した唾液と胃液で口の中と周りがベチャベチャになる。驚いて目を瞠った和泉守は引き抜こうとしたが、腿に抱きついていやいや顔を横に振った堀川がそれを拒んだ。 「続けて」と唾液まみれの顔で懇願する。 立ち止まって呼吸が落ち着くのを待ちながら口内に逸物を預けた和泉守は先程の堀川の過敏な反応を思い返し、慈しみに隠して燻らせた軽い加虐心が起ち上りだしている事を心配した。 大事にしたいのに。 優しく可愛がって、手元で抱きしめていたいのに。 そんな和泉守の情愛を堀川はちっとも理解しようとしていない。 犯すだなんて。オレはお前をそんな風に扱いたくなくて、指一本触れずに我慢してきたのに。結局お前はオレを征服するようなやり方しか知らないと見くびっているんだ。 消化しきれない苛立ちの中、口周りを唾液で汚しながら和泉守の腰骨に縋り付いて肩で息をする柔らかく小さな最愛は懸命に頷くと再び舌を伸ばした。 「ここで擦ると悦い顔するんだよな、国広」 思わぬ快楽のツボをやり過ごそうと肉柱を飲み込む事に意識を逸らした堀川を制して、和泉守は集中的にカリ首で上顎を刺激した。ゆっくりと前後する動きが余計に焦らされているようで、堀川は内腿を擦り付け耳まで顔を赤くしてただ耐えるしか出来ない。体の内側、肉を、細胞をくすぐられているような言い様のない快感の制御を和泉守に掌握されている。そして、そんな関係性にすら高揚している。 下腹部の奥にじわじわ広がる快楽の渦が腹から喉、頭に伝って感覚を過敏にし、もう身体中どこを触られても崩壊してしまいそうなほど脆く解れている。 唾液と摩擦が入り混じった「ジュプジュプ」という淫靡な音が口の中から直接耳と頭に染み込んできて、今ここは食物を摂り入れる器官ではなく和泉守の為に開かれた性器なのだと刷り込まれる。 和泉守の性器を愛撫する行為だと思っていたのに、蒸れて滑りを増した肉柱を慰めるどころか犯されている。 「目が蕩けてんぞ、分からねえか」 瞼に垂れた汗を拭われながら、視線を返した和泉守の表情も息継ぎの中で恍惚としている。 自分もきっと同じ顔をしているのだろう。抽送を繰り返す口元から垂れた白く泡立った唾液と先走りの混じりけを床に落としながら思った。 倦むことなく強度を増した幹もそろそろ解放を待ち望んでいるのだろう。和泉守の荒くなる呼吸に切なさが混じってきた。 もうすぐこの粘膜の遊びは終わってしまう。 息苦しさの中で生じた心憂さに、せめてもと丁寧に口内に染み渡るおつゆをすすった。察したのか和泉守は頬張った口元を優しく拭ってくれた。 優しい。嬉しい。 片手が?から顎そして堀川の首を、その細さを確かめるように掴む。親指から中指の先までがちょうど頸から喉仏の半周に収まった。 黒い徳利から生えた白皙がゴクンと波打つ。 ――この指に少しでも力を入れたら 想像の中で苦しみ眉を寄せる堀川に胸がチクリと痛んだ。ごめんと心中で呟き波に合わせて親指で擦る。 国広が急に目を瞠ったので、咄嗟に指を外した。 上顎を擦った時と同じ反応だった。 一瞬昂ぶった快感に目を瞑って耐えている国広によしよししてやると、トロンとした目でおねだりしてきた気がした。 「ちょっとだけ、な」 色んな体液を混ぜこぜにした汁を味わう喉の柔らかいところを親指の腹でゆっくりゆっくり撫で擦る。 堀川の背中が甘い刺激に跳ねた。 「感じやすくなってんのか。もうすぐここにオレのが全部嵌っちまうんだぜ」 肉柱の根元がもう少しで堀川の唇に触れる。 「はぁ……国広、国広っ」 体の力が抜けて腿に縋り付いている堀川が全身で享受している甘い痺れが伝染したように、和泉守も健気に頬張って耐えている堀川を見つめているだけで胸が迫って堪らなくなってきた。 硬く張りつめ、血管が浮いた肉柱の脈が早鐘を打っている。 舌で受けきれないほどの透明の体液が鈴口からドパドパと漏れ出て抑えきれない。 「国広、もう、出る。あっ、イく。でる、あっ」 和泉守の涙と吐息が混じって掠れた、こんな声を聞いたことがなかった。 兼さん。可愛い。愛しい。堪らなくて、おかしくなっちゃうよ。 全部僕にぶつけて。僕にだけ見せて。僕にだけ感じさせて。 震える腰を受け入れるように抱き寄せると鼻頭に和泉守の下腹部がくっつく。 距離が無くなった男根が粘膜に包まれ堀川の口内にずっぽりと収まった。 小さな口の中一杯に塞ぐ肉の塊が堀川から酸素を奪う。喉奥にまで食い込んで逆流に耐える顔は酸欠で涙と鼻水で熱く滲んでいる。 寄せた眉が、薄くしか開いてない潤んだ碧色が、必死に自分の名を呼んでいて、和泉守は赤裸々に泣きそうになった。 「国広……ッ」 堀川を抱えるように引き寄せた時「ゴツン」と頭に刺さったような振動が響いた。 胃液が逆流する手前で素早く引き抜かれた肉棒の鈴口から放たれた白濁を幼い表情に受け止めながら放心している堀川の手足はだらんと下がり、下半身が水中に浸かったように濡れて震えている。最愛の涙と鼻水と唾液で滲んだ上に白濁でぐちゃぐちゃにした愛くるしい顔は耐えていた喉奥の不快感で眉を寄せて鈍く歪み、嘔吐く度に粘着性の強い液体を床にこぼした。 「かねさ……」 名を呼びきる前に「ぐうっ」と唸ってまた嘔吐く。座る体力すら奪われたのか崩れ落ちて横たわりながら、なお名前を呼ぶ。 「かねさん、かねさ……」 眉間から?、?から口元、汚れを手で拭って口付けたら一息ついて、悩ましげな微笑みを向けられた。 「汚いよ」 構うものか。 ふっくら艶を増した唇を慈しむ口付けをもう一度落とした。 「へへっ。嬉しい……」 花が咲くような幸福な笑顔が返ってきた。 「気持ちよかった?」 浅く頷くと「僕も」とはにかむ。 「これで大人になったかなぁ」 「……大人は布団の上で漏らさねーだろ」 「い、意地悪ぅ」 悪態をついたが悪いとは思っていた。 本当ならもっと優しく、包み込むように愉悦に導きたかったのに。 「ガキにはまだ早い、か」 上手くはいかない。 ぐったりした国広の半身を綺麗にしながら、理想通りの目合いでは無かっただろうけれど、小さくて柔らかくて健気なこの体を願わくばまた抱きたいと思った。 「もっと小粋にいけると思ったんだがなぁ」 すっかり萎えて縮んだ肉棒を下履きに仕舞いながら、現実は格好が悪い所作で出来ていると思い知る。 大きな大きな丸い碧色がじぃっとオレを見つめながら「でもさ」と妙に弾んだ声をあげる。 「僕と兼さんだけの秘密だから、ちょっとかっこ悪くても僕は……幸せ!」 馬鹿野郎。さっきどんな目に遭ったんだよ、お前は。 「呆れた奴」 髪を撫でるとくすぐったそうに笑う。 ずっと、ずっと。この笑顔を傷つけるのが怖かった。 「大丈夫だよ、兼さん」 以心伝心したように、しっかりとした声がオレの名を呼ぶ。 「僕、頑丈だから」 腕をあげてこぶを作る仕草がさっきより弱々しい。 「そうだな」と?に口付けたら少し驚いていた。悪かったな、今唇に触れたら、また……。 「愛してる、国広」 誤魔化すように言い捨ててしまったけれど、まん丸の碧色は涙で滲んで「うん」と小さく頷いた。 *** 一度決壊してしまえば、あとは簡単なもので。 あれから和泉守と堀川は毎晩のように互いを求め、愛し合っているのだけれど。 和泉守は思った。厄介なことになった、と。 「なぁ、国広」 「まだ恥ずかしいから」と枕元の仄かな光だけを頼りに向き合った薄暗がりの中、眉根を寄せながら問い詰める。 「おかしかねえか?」 最愛は「何が?」と目を丸くして、愛くるしい表情で首を傾げている。 「オレは未だに床でお前の裸すら見たことが無いんだが」 さらに「それが何か?」とでも言いかねない面をしてやがる。 「いや、そろそろ交尾つーか、ちゃんとしたのもやらねぇか?」 要約すると「ヤらせろ」になるのでなかなか言い出せなかったが、言葉を選びつつとうとう打ち明けた。 堀川は首を傾げて頑是ない表情のまま「うーん」と一言呟くと「やっぱり駄目!」と顔の前にバッテンを作った。 口をあんぐりさせた和泉守に照れながら「だって、お腹とか見せるの恥ずかしいし」と何やら理由を並べている。 もっと恥ずかしいことを連日連夜やっているだろうと反駁したいが、呆然として声が出ない。 「だからさ」 向き合った堀川がいつものように目を瞑る。 「今日もここで愛して」 舌を突き出して喉奥を見せる最愛の、確かにいたいけな姿を見ながら。 とんでもない悪癖をつけてしまったと後悔する和泉守は、とりあえず重ねた舌をねぶって、いつもの愛撫を始めた。 【了】
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